新装版スレイヤーズ13 降魔への道標 ネタバレ感想 その2

 感想第2弾行きます。今日はラストバトルでのリナについてのお話から。以下ネタバレです。

 実はこの話を初めて読んだ時、VS覇王戦序盤のリナに違和感を感じたんです。何でこんなにびびってるんだろう、と。覇王は高位魔族で強いのはわかる。戦う前の段階でここまではっきりと「恐怖」という感情が書かれているのってここが初なんじゃなかろうか?1巻のシャブラニグドゥ戦にしても、ガーヴ戦にしてもフィブリゾ戦にしても、確かに相手との差が圧倒的である描写はあったし、当然ピンチにはなった。けど、恐怖より「戦う・勝ってみせる」という意思のほうが強く表現されていました。覇王戦でも恐怖しながらも「倒してみせる」ときっぱり宣言はしてるんですけど、自分に言い聞かせるような、余裕のない感じにも見える。リナがびびりまくってたその割りに覇王弱いな〜なんてまで思いました。まあ、覇王が弱い=本気を出していなかった理由は後述されるわけですが。リナが覇王を前に恐怖した理由・・・それは魔族との戦闘経験を積んだことで、逆に魔族の本当の強さ・怖さを知ってしまったから・・・そんな気がする。色々考えて、ふとこの結論に至って、それからは覇王戦がより好きになりました。
 魔族と激闘を繰り広げてきたリナたち。その過程で魔族と人間の能力の圧倒的な差というのは散々描かれてきました。1部の後半では高位魔族の力の前に、踊らされていると知りながら従わざるを得ないほど。リナはそんな中でも活路を見出すべく戦い続けました。でも、結局のところフィブリゾの計画に乗せられてしまった。フィブリゾ戦は人と魔族の戦いという観点で見ると完全にリナの敗北なんですよね。L様介入という想定外の要素により結果的に生き残れただけで。なんとか出し抜こうとあがいたけど、敵わなかった。それほどに高位魔族の力と言うのは強大だった。13巻では竜のミルさんとエルフのメンフィスがパーティに加わり、人間の力の微力さというのが余計に際立って見えました。魔族との戦いの経験は、リナにとってスキルアップというプラスの影響だけじゃなかったのではないかと。現実を知ることで臆病になるというのは実際にもある話ですよね。そこで逃げ出したりはしないのは、さすがはリナなわけですが、立ち向かったもののどこか萎縮していた。
 そんなにリナを奮い立たせたのがガウリイ!彼の「水滴で岩を砕いてみせる」と言う言葉に、リナはシャブラニグドゥ戦で勝利を呼び込んだ自らの言葉を思い出す。「負けるつもりで戦えば勝てる確率もゼロになる。たとえ勝利の確率が低くても、必ず勝つつもりで戦う」・・・リナは取り戻した気持ちを胸に覇王と対峙する。このシーンでのガウリイの行動とセリフを生み出した心の力というのは、リナから貰ったものだと思うんです。シャブラニグドゥ戦の時のガウリイは「敵わぬまでも一矢報いる」というゼルの考え方に同意して戦いを挑もうとしていましたから。リナから貰った力を無意識に見せたことでリナに返した・・・互いを補い合う二人の絆が見える良シーンです。その強い意志はリナからさらにメンフィスにも伝わり、覇王撃破へ繋がります。
 この覇王戦は、スレイヤーズ表テーマの集大成だと思うんです。強大な敵に強い意志を持って立ち向かい、勝利するという爽快感・・・スレイヤーズのエンターテイメント性の部分が色濃く反映されている。そういう意味ではアニメ向きのエピソードだと思うんですよね。9〜13巻までで26話で構成してやらないかなあ。で、完結編として14巻15巻はOVAシリーズで、と妄想。
 それはさておき、表テーマのクライマックスが残り2巻を残して描かれるというところに2部の奥深さを感じる。その先にあるものがスレイヤーズの裏テーマ・・・というより真テーマなんだな、と。
 さて、最後に・・・13巻を語る上で絶対外せない!ラストシーン語り行きますwわずか1ページ程の分量の中にリナとガウリイ二人の個性が詰まっているというかなんというか。

「・・・・・・そういえば、よ・・・・・・」
 ガウリイが思い出したように言ったのは通りをしばらく歩いたあとのことだった。
 「これからどうするんだ?オレたち?
 『光の剣のかわりになるような剣を見つける』っていうのは・・・・・・これで見つかっちまったわけだし・・・」
 「・・・・・・あ・・・・・・」
 ガウリイの指摘に、あたしは小さく声を上げる。
 ・・・・・・うーん・・・・・・そー言えばそんな話だったよーな気もするなー・・・・・・
 ・・・・・・けど、剣が見つかったとなると・・・・・・
 「ま、いーか」
 言ってガウリイは左手で、あたしの頭をくしゃっ、となでる。
 「・・・・・・へっ・・・・・・?いい、って何が・・・・・・?」
 「お前さんといっしょに旅をするのに、別に理由なんかいらないだろ。
  ま、気の向くままの旅、ってことでいーんじゃねーか?」
 「・・・・・・そだね・・・・・・」
 わしわしと頭をなでるガウリイの手が、なぜだか妙に心地よかった――

 思わず書き出してしまった。ガウリイはいつもの調子で「これからどうする?」と聞いてきます。二人の旅・・・目的地を決めるのはリナなんだけど、どうする?って話を切り出すのはいつもガウリイなんですよね。旅の目的・・・リナ完全に忘れてましたよwまあ、割と最初のほうから無意識のうちに、そんなのはもはやどうでもよかったわけで。だけど、口には出しません。旅の理由を考え出します。これがリナらしいなあと。リナはものすごい理屈屋なんです。基本的に自分の行動に理由付けをします。自分にとって損か特か、興味があるかないか、無視できるかできないか、今が動くべき機なのか否か・・・この辺りが判断基準。これを瞬時に判断して、理由付けを行う。ってのがリナの思考パターン。リナにとっては「理由」って言うのは重要なんですよね。
 そこで、ガウリイが切り出した・・・「理由なんていらない」と。ガウリイは普段は天然だけど、ほんと押さえるところはわかってるんだなあ。「理由なんていらない」こんな結論はリナ側からは絶対出てこないよ。例え心がわかっていても、理屈がそれを押さえ込んでしまう。それを知ってか知らずか、押すガウリイ。ガウリイ側の思考は読みづらいんだけど・・・ここ最初からリナの反応を確かめていたのか?そもそもガウリイは最初から剣探しにはあまり拘ってなかった。それに、ソラリア編で「お前さんにはとことんつき合ってやるつもり」との発言もあり、ガウリイの中ではリナと一緒にいる理由に剣は関係ないと言うのは結論出てるわけですよ。なのに今更「剣見つかったけどどうする?」って聞いてるわけで・・・。やっぱ、リナの出方見てるよ、これ。考え込んだのを肯定と見て、もう一押ししたんだろう。うーん、やりますなあ。ガウリイについては「ボケは全部演技」なんて説もありますが・・・私としてはガウリイの天然な部分も好きなので、さっき書いたとおり「基本は天然だけど押さえどころはわかってる」くらいのニュアンスで捉えてます。
 このシーンはほぼ会話のみで成立していて、状況説明やリナの心の動きの説明が少なめです。その辺、「理由なんていらない」感がより強まっていいなあ、と思う。もう理屈じゃないんだ、と。リナのセリフが短い3つだけなのもなんともwそれでいて、最後の一文で「嬉しいんだな」っていうのが伝わってくるんですよ。頭をなでるしぐさは最初は嫌がっていたはずなのに・・・それがいつの間にか気にならなくなって、今や「心地よかった」ですよ。だけどまだ「なぜだか」なのかよwというもどかしさが萌える。
 と、二人の関係はこっそり深まっていくわけですが、これも14巻の悲劇を盛り上げる要素の一つになっているというのも切ないところです。14巻の悲劇は「自分たちの身に置き換えられる」というのが感情移入できる大きな要因なりますから。