読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

「ゼフィーリアの悪魔」秋田禎信先生版スレイヤーズの設定検証と感想など

 スレイヤーズ25周年あんそろじー収録秋田禎信先生の作品はリナの魔道士協会時代を描いた一作…ファン的にこの時期のリナのお話というのは読んでみたかったので念願叶って大興奮です!
 さて本作、秋田先生ご自身も「設定はでたらめです」と語るように、原作で垣間見えるリナの幼少期エピソードとは異なる部分があります。野暮とは思いつつもそのあたりを確認しつつ秋田先生のオリジナルな設定の魅力を検証していきたいと思います。

1.魔道士になるつもりはないと語るリナ

 これは本作の最大の肝であり、意外性という意味で多くの読者の興味を引いた設定だったと思います。
秋田版リナは、魔道士になりたくて魔道士協会に通っているわけではないと語ります。いろいろな学校追い出され….(トラブルを起こしたニュアンス)ようやっと行き着いたのが魔道士協会。「ここまで追い出されたら家で姉ちゃんの家庭教師」という背水の陣で協会通っている…目的は魔道士になることではなく、他に居場所がなくて仕方なく通っていたというのです。

 スレイヤーズせれくと4 収録の「超巨大あとがきRX スレイヤーズうら話」には、リナが魔道士協会に通うようになった経緯として、
「姉へのコンプレックスと、魔道関係への好奇心から親にねだって協会に通わせてもらった」
といううら話が登場します。
 また、「スレイヤーズすぺしゃる20ミッション・ポッシブル」収録の「ランナウェイ・ガール」でリナは、
「あたしが魔道士を志したのは姉ちゃんに認めて欲しい、勝ちたいというのがそもそもの動機だった」
と語ります。

 目的ではなく手段というニュアンスは含むものの、原作リナはあくまでも魔法に興味があり、魔道士になるために魔道士協会に通っていたと思われ…この魔道士になる気がなかったリナは秋田先生オリジナルの設定だと思われます。

 また、魔法を習い始めた時期についても秋田リナは10歳くらいと一般より遅れて学び始めた設定ですが、原作リナは「遠き日の決着」によれば少なくとも10歳になる前には炎の矢が使えたみたいでだいぶ幼い頃から協会に通っていたようです。

 この秋田版リナの衝撃発言、私、初めて読んだ時に原作設定を忘れてすっかり受け入れてしまいました。その理由…一つ目は意外性という面白さがあって引き込まれたこと。そしてもうひとつは「魔道士にならないよ」としれっと言い放つリナのドライさ、冷静さが原作のリナの持つそういった雰囲気にマッチしていて説得力があるんですよね。「ああ、リナさんこういうこと言いそう!」って思っちゃった。

 そう、秋田版リナは、原作中に登場するリナのイメージ通りなのです。性格は昔から変わっていないんだなと思わせる男前なかっこよさ。
 魔道については素人ながらも高いポテンシャルの片鱗を見せる「天才」として描かれます。

 これは私個人の想像ですが、「姉ちゃんへコンプレックス」から魔道士協会に通ったリナは…もうちょい泥臭いといいますか…旅に出る前に知られざる下積み時代があったんじゃないかとか思うのですよ。
 すぐに魔法を使えるようになったみたいなので魔道の才能はすぐに開花したみたいですけれども、目的・目標であった姉ちゃんにはずっと勝てなかったわけで…。
 なので、ああ見えて努力の人なんじゃないかとか。
 あの不屈の精神も姉ちゃんに凹まされてそれでも立ち上がってきたからこそのもののように感じていました。

 そんな思い込みがあったからこそ、秋田先生のリナは原作中のリナのイメージそのままといいますか、リナって昔からリナだったんだ!と逆に新鮮でした。
 この天才イメージは、多分第三者の視点だったからというもの大きいですね。
 リナの心理描写つきだと、父親殴り込みに来たところで「やばい、さらに大事になってここ追い出されたら姉ちゃんにしばかれる…」とか実はもっと焦ってたかも?

 この大胆とも言える設定変更は、スレイヤーズらしさ、リナらしさを出しながらも秋田先生のオリジナリティが発揮されているように感じて、とても楽しく読めました。

2.予言にある「魔に禍いをなす運命の子」

 これも秋田先生のオリジナル設定だと思われます。流石に原作の隠された設定だったら後付けが過ぎますぜ的な…リナさん大好きな秋田先生のラブコールでしょう。

 リナは、ファンタジーの王道主人公である王族や選ばれし勇者などではなく、あくまで立場としては一庶民、一介の旅の魔道士である、というところがスレイヤーズアイデンティティの一つかなとも思うので…。

 とは言え、この設定があることでごく短編である秋田版スレイヤーズが「想像の余地」を残して締めとなっていて今後の展開など夢が広がる追加設定だと思います。ええ、これはもう続き読みたい!リナが魔道士になるまでのお話!
 勝手ながらちょっと想像してみた。
 イスタレン先生はその後もリナの師匠のような立場になるのでしょうねえ。予言については本人には伝えません。「ぼく」こと一人称の少年にも口止めします。
「まだ彼女が運命の子なのだと100%決まったわけではない。もし違った場合、余計な枷を背負わせてしまうことになる。いや、それより…リナくんの場合は『そういうめんどいのパス』とか言って協会を辞めてしまうかもしれない…。可能性がある以上それは避けたいところです。」とかなんとか。
 少年は納得しつつも
「大人って汚いですね。」
「君も大人になればわかります。」
みたいなやり取りがあったりなかったり。

 実際に魔法を本格的に習い始めたらを面白くてのめり込んじゃうリナ。そして数々の試練を持ち前の度胸とツッコミ力でクリアしていく。少年もその後も成り行き上一緒にリナと行動することが多くなって…いつしか抱く淡い恋心…でも全く気づかないリナに振り回される日々を送る。

 そんな日々の中、リナの魔道士としての成長スピードについて行けなくなる少年。コンプレックスからしだいに距離を置くようになってしまう。

 わだかまりを抱えたまま、ついにリナが旅に出る日が近づいてくる。
 ある日、協会の廊下ですれ違う二人。

「久しぶり…旅に出るんだって?」
「まーね。姉ちゃんがさ、『世界を見てこい』ってさ。なんかよくわかんないけど面白そうじゃん。」
 遠足の前の日の子供のような口調でこともなげに言い放つ。その視線はもう旅に出た先の…遠い世界を見ているようだ。
 ふとすっかり忘れていたイスタレン先生の言葉を思い出す。彼女は予言にある「魔に禍いをなす運命の子」だと。
 リナ生ける禍いインバースはきっとこれから旅に出て魔族に…この世の終わりと等しい彼らに黄昏を与えるのだ。そうか、かつてのぼくがそんなものはいないと思っていたデモン・スレイヤーとは彼女…リナ大胆不敵インバースの事だったのだ!その時ぼくは確信した。
 そうだ、ぼくとリナ究極超人インバースはやっぱり住む世界が違うんだ。いや…これは最初からわかっていたことだ。リナ世紀末インバースは、これから彼女が本来いるべき世界へ…ぼくの手の届かない世界へ旅立っていくのだ。その世界では朝起きると真っ黒な太陽がギラギラといつくも昇っていて、リナデモン・スレイヤーインバースはその中から一番生きのいいやつを、手掴みでもぎ取って目玉焼きにして朝ごはんにするにちがいな…
 ぱーん!と横から頭を叩かれる。
「また失礼なこと考えてるでしょ。」 
 久しぶりの衝撃。
「…ったくどいつもこいつも…人のこと厄介払いするみたいに扱ってさ。ていうか、そもそも最近あんたあたしのこと避けてない?そりゃクラスも離れちゃったし、会うことも減っちゃったけどさ…それにしたって露骨よ!あたしは…あんたのこと…その…友達だと思ってたんけど…違うわけ!?なんかこう、気の効いた餞別の言葉とかあってもいいんじゃない!?」
 そう言って頬を紅潮させながら視線を外したリナは…歳相応の…彼女の背負う運命には不釣り合いの…一人の小さな女の子に見えた。
 ぼくは動揺を隠しながら、
「まあ、気が利いてるかはわからないけど…きみなら大丈夫だと思うよ。」
 そう言いつつ右手を差し出す。
「とーぜんよ!」
 リナ自信過剰インバースは、満足そうに微笑んでその手を力強く握り返す。その手を伝ってぼくにまで力がみなぎるような気がした。そう、彼女は大丈夫だ。ぼくは…信じることしかできないけど、リナ悪友インバースはきっと己の運命にも打ち勝つ。そんな気がするんだ。
 と、リナ強欲インバースは握ったぼくの手をそのまま引っ張って…
「じゃさ、大切なオトモダチの門出を祝って、ケーキでも食べに行きましょうか。もちろんあんたのおごりね!」
「ああ、こんなオチだと思ってたさ…父さん、母さん僕はもう帰れないかもしれない…でもどんなことがあっても家に迷惑をかけるようなことは…」
「だからメモを書き残すなー!」

みたいなやり取りの後にリナは旅立っていくとかなんとか妄想しましたすみません捏造です。少年のキャラ定まってなくてすみません…。
 あとはリナ帰郷後の再会のエピソードとか、イスタレン先生が予言について語ってリナが嫌な顔をするお話とか妄想広がりますね。

3.呪力障壁なんて誰が覚えてんのよ

 これは小ネタな部類。本編14巻のヅェヌイ戦で使われてるからみんな覚えてるんじゃないか的なツッコミどころですね。
 でも、きっと秋田先生が神坂先生に設定聞いてみたら「知らん」って返されることが多くて、それをネタにしてみたっていう、秋田先生だからこそできるメタなネタなんじゃないかとか。このノリとテンポの良さが好きです。

 と、いろいろ書いてきましたが、「ゼフィーリアの悪魔」面白かったです!個人的には今回のMVPは秋田先生です。もしあんそろじー第二弾なんて企画があったら、続きをぜひ!ぜひに!!