スレイヤーズEVOLUTION-R8話ネタバレ感想 補足

 8話感想補足編。ネタバレです。


 自分の感想書き終わって、ようやくネットの感想めぐりをしたけど…やはり賛否両論な回のようで。やはり原作を大きく変える回というのはやる方も勇気いるだろうな。私は今回賛派なので、このあえての踏み込みは評価したいです。
 さて、今日はズーマ関連のまとめと色々考察などを。
 スレイヤーズEVOLUTION-Rの見所の一つとして、「原作では語られなかったズーマの過去が語られる」と言うものがありました。神坂先生は新装版3巻のあとがきの中で「なんでこいつがこうなったのか、実は作者の頭の中ではお話が出来上がっていたけど、リナの一人称の中で、唐突に相手がそのことを語りだすのは嘘だと思ったで結局書かなかった」「本編で語られなかったズーマ周りの設定をスタッフさんに渡した」と書いていました。その答えがこの8話で明かされました。
 ただ、原作設定そのままではなく、アレンジを銜えていると思われます。私が思うに、神坂先生の言う「なんでこいつがこうなったのか」は暗殺者になった理由、ではなく、商人と暗殺者、二つの顔を持っていた理由だったのかな、と思った。リナが原作6巻でズーマに問いかけた内容も「なぜ商人としてまっとうに暮らしながら、裏で暗殺者をやっていたのか?」だったし。
 あくまで予想の範囲内だけど、今回語られた内容の中で原作設定は「阿漕な先代があちこちで恨みを買っていた。そのとばっちりでラドックは妻を理不尽な形で失った。その時、彼の心の中に闇が生まれた。」という部分までなんじゃないかな、と。「復讐の対象だった妻を殺した盗賊がサイラーグの戦いで命を落としていた。それゆえズーマはリナに恨みを抱き、暗殺者の道を選んだ」の部分はアニメオリジナル設定だと思う。原作だとすぺしゃるの時代にナーガが腕の立つ人物の名を挙げていくシーンで「暗殺者ズーマ」の名前を出しているので、ズーマがサイラーグの事件の前から有名だったのは間違いないので…。
 アニメではなぜ「リナに恨みを抱き、それゆえ暗殺者の道を選んだ」という設定を追加したのか?おそらくですが、「心の闇に勝つことが出来ずに暴走する悲しい復讐者」というズーマとラドックの内面をより掘り下げるためではないでしょうか?
 原作のズーマはあくまで「プロの暗殺者」としての側面が強調されています。受けた依頼は必ず遂行する。自分の「手」を使って殺したがる、等など。6巻でのリターンマッチの理由も、両手を失った雪辱、というよりは「受けた依頼を必ず遂行する」というプロ根性によるものが大きかったのではないかな、と思う。4巻で主に相手をしていたのはガウリイなので、敗戦により逆恨みをするならその矛先はガウリイに向かうのが自然だし…。ズーマの戦闘スタイルはリナにとって非常に相性が悪いもので、再三にわたってリナを苦しめる強敵としての立ち位置もあった。そんな血も涙もない暗殺者に見えたズーマもちゃんと人の心を持っていて、最後の最後にアベルを思って敗れる。そのシーンで、「あ、この人も根っからの悪人ではなかったんだな」とふと思わせる…というのが原作の流れです。神坂先生があえてズーマの過去を書かなかったのも、原作ズーマの流れでその過去を語ることにあまり意味がなく、むしろ余韻としてのみ残したほうが効果的、と思ったからなのかも。
 私が思うに…あくまで想像ですが…原作ベースのズーマが暗殺者になった理由は、まず奥さんを死に至らしめた相手を殺すために腕を磨いた。それを割りと早い段階で成し得て…そこで人を死に至らしめる「手」の感触が忘れられなくなってしまったのではないかなーと。いや、あまりに事務的に殺してますから、快楽は感じてないか。暗殺者として生きている時だけ、奥さんの死を忘れることが出来た、とか。原作ズーマのプロ根性には「恨み」という部分があんまり感じられないんですよね。「こういう風にしか生きられん男だった」と後悔しているようなセリフも言っているし。この辺の「原作設定がどうだったのか」については、めがぶらインタビュー辺りで明かされるかも。
 アニメは逆に「原作では語られなかったズーマの過去を見せよう」というアプローチから始まっているっぽいのです。仮に「リナに恨みを抱き、それゆえ暗殺者の道を選んだ」つまり、「依頼とは関係なく最初からリナに恨みを抱いていた」というオリジナル部分がない…原作通りの経緯でリナとズーマが戦うことになったとすると、まずREVOLUTIONでリナを狙った理由はプロの暗殺者としてジョコンダに暗殺の依頼をされたから、という点のみになる。そこで一度敗れたズーマは「一度狙った相手は逃がさない」というプロ根性、及び両手を失ったことへの逆恨みからリナに再戦を挑んでくる、というのがEVOLUTION-Rでの流れになります。この流れでズーマの悲しい過去が描かれても、視聴者はいまいち感情移入出来ないのではないか…?そんな気がする。殺しを仕事として受け、それを遂行しようとしているだけなのですから。リナへの狂ったような恨みの裏には実は悲しい過去から生まれた闇の心があった…ズーマの過去をクローズアップするならその方が見せやすい、伝わりやすい。そんな演出上の配慮からの変更なのかな、と思った。あくまで「悲しい人物」として描く。そこにスレイヤーズEVOLUTION-Rのテーマである「人が持つ二つの心」を絡めていこう、と言う形で構成するために生まれたのがアニメ版ズーマなのでしょう。
 アニメ版ズーマのズーマが暗殺者になった理由は多分2段階。以下は私の想像も含むお話になります。始まりはもちろん奥さんが理不尽な理由で殺され、それを目の前で見ていることしか出来なかった、という事件。ここで心の闇が生まれます。一人生き残ってしまったラドック。彼がすぐに復讐に動き出さなかったのは…まだ幼いアベルの存在があったからではないでしょうか?ラドックは自身の過去をアベルに語った後、「仕方がないことだ」と割り切ったかのようにアベルを諭します。このシーンはのラドックはアベルに強く生きていって欲しいという親心と自分に言い聞かせて何とか復讐心を踏みとどまらせようという葛藤のようなものを感じました。きっと、アベルを育てるためにひとまずは妻の理不尽な死を割り切ろうとしたんじゃないかと思う。でも、その心の闇はどうしても消えない。復讐のため、密かに体を鍛えていた。妻を助けられなかった自分の無力も許せなかったと思うし…。ラドックは不幸なことにその筋の才能もあったんですね…。師匠が裏稼業の人だったのかも。アベルへの親心と、妻への忘れられない思いからの復讐心。二つの心の間で長年揺れ動いていたラドック。アベルが成長し、自分の手を離れるに従って、次第に復讐心の方が強くなっていってしまったのでは?仇の盗賊を探し始め…やっとの思いで突き止めてみたら、サイラーグの事件で既に死んでしまったという結末。そこで気持ちが収まればよかったのですが、長年溜まりに溜まった憎悪は止まらない。でも、怒りのやり場がなくなってしまった。サイラーグの事件を調べて見ると、そこにリナ=インバースが関わっていたらしいことがわかった。そこで、やり場のない怒りの対象は自分の復讐を妨げる形となったリナへと移った。もう自分でも止められなくなってしまったのでしょう。リナを倒す、という目標を得たことで心の安定を保てた部分もあったのかも。ここでラドックは「暗殺者ズーマ」の道を歩み始めます。リナは旅の身でどこにいるかもわからない。原作にもありましたが、知名度が高いだけに、色々な噂が先行して余計に居場所は掴みにくい。…逆にその知名度を利用する。暗殺者として活動していれば、「リナを殺して欲しい」という依頼が舞い込むのではないか?盗賊いじめやってたり、あちこちで悪い噂も絶えない(噂だけじゃないのもあるけど…)リナに恨みを持つ人間、邪魔に思う人間がいるであろうことは想像できますし…。加えて暗殺者としての活動は自身の腕を磨く上でも有効でしょう。力を身につけたり、盗賊たちを探す過程で裏社会にもコネがあって、その道に入る下地は出来ていたのかも。ズーマは精力的に「仕事」に打ち込む。数年で「暗殺者の中の暗殺者」と呼ばれるに至ったのは、腕に加えて、その仕事量とそれをこなすスピードが驚異的だったからなんじゃないかな、なんて。であれば、数年で有名に、という流れもそんなに不自然じゃないかな…と。
 数年後、時間はかかったけどズーマの読み通り、ジョコンダからリナ暗殺の依頼が入る。ジョコンダ城で冥王の壷を従えたオゼルに出会い、契約を持ちかけられ、更なる力を求めてそれに応じる。以下はREVOLUTION〜EVOLUTION-Rのストーリー通り、という流れかな。
 今回語られたズーマの過去については、若干説明不足な点、見る側の想像力に委ねられている点もあるのは事実。でも、限られた尺の中で原作の裏設定をベースにしながら、EVOLUTION-Rのテーマである「人が持つ二つの心」をうまく表現できていたのではないか、と思います。原作の「強敵としてのズーマ」という観点から見ると少し物足りなくもあるのですが、その代わりに「心の闇」=弱さが強調される見せ方になっていたのはもう一つのズーマ像なんだと思う。アニメ版の切なく、悲しいズーマには原作とは別の角度から色々感じるものがありました。登場キャラは原作6巻…1部だけど、「止まらない闇」にスポットを当てたストーリー展開は原作2部的な印象を受けました。
 ズーマがアベルを手にかけてしまうという展開は原作と真逆で驚いたのですが…アニメ版ズーマならこの展開もやむを得ないかも知れない、と思いました。「ラドック」と「ズーマ」、二つの心を繋ぎとめていたのはアベルだったのでしょう。アベルがいなければラドックはもっと早い段階で「ズーマ」…心の闇に囚われた存在になっていたのではないか?アベルはラドックにとって救いであった一方、ズーマにとっては枷でもあった。もっと早く、復讐に踏み切っていれば、盗賊を自分の手で殺せたかもしれない。「愛していたけど同時に憎んでもいた」…「クリムゾンの妄執」で描かれた相反する二つの感情を同時に内包する人間の心、という部分も意識したのかも…。葛藤の末、結局、ズーマの心が勝ってしまい、アベルは命を落としてしまう。
 ズーマの最期もゼロスに殺される、と言う形に変更。あっけないといえばあっけないのですが、私はズーマの悲壮さが強調されていて良かったと思います。闇に落ちて、いろんな葛藤があって、狂ったように憎悪に身をゆだねるズーマ。それは人間だからなんですよね。でも、それをあざ笑うかのように、魔族であるゼロスに殺されてしまう。スレイヤーズ世界では魔族は人とは相容れない、そして単純に持っている魔力の差では絶対的に叶わない強い存在として描かれる。その対比として人間の弱さ、小ささも。魔族の怖さと人の弱さが垣間見えて、このシーンにも色々感じるものがありました。
 これら、結末の変更の理由は他にも色々あったと思う。一つは本筋が「冥王の壷」と絡めて展開していること。もしアベルが生き残っていれば、壷を巡るお話はいったん小休止になって、後日談的なストーリーを挟まなければならなくなってしまう。ズーマの死後、ゼロスがすぐに登場して本筋ストーリーに移行する、という流れは本筋に注目させる上でも効果的に感じた。リナが何か思うところがある、という表情でアップになったシーンで、ラドック親子の悲劇の余韻もちゃんとあって、良かったと思う。
 もう一つは、アニメ版ではズーマが根っからの悪い人ではなかったこと、アベルを思っていることは、もう充分に描かれていた。そこで「最後はアベルを思って敗れる」という展開を描いても原作ほどのインパクトは出ない。セイグラムの「人の心によって敗れた」というセリフも使えないし…。
 あとはリナがラドックの過去を知ってしまって少し同情の念が生まれてしまっていることも要因かも。それでも、必要であればリナは心を押し殺してズーマを倒したと思う。でも、すると、こちらもクリムゾンの妄執的な「重さを背負う」流れになってしまう。そうなると、リナへのフォローのシーンが必要になってしまう。それはそれで見たいけど…今回のテーマから軸がぶれてしまう。あくまで「ズーマの心の闇」にスポットを当ててやってましたから。であれば、ゼロスが止めをさして、リナはラドック親子の悲劇に何かを思う、という、という流れの方が焦点が定まるかな、と。
 色々と書いてしまいましたが、この8話、私はすごくよかったと思う。個人的に一番評価したいのが、敵サイドの悲劇のエピソードをやりながら、リナがそれに対して真正面から向き合って、何かを感じると言う形で、ちゃんとリナが主人公の話になっていること。TRYやREVOLUTIONがフィリアやポコタの話になってしまっていたのとは大きく違う。原作ベースなので当然と言えば当然なのかも、ですが、これから終盤に向けてもこの流れでリナの話をやってくれるのでは?と期待が持てるお話でもありました。いよいよ終盤…どうなる?