「ライトノベル文学論」でのスレイヤーズ

 榎本秋氏著「ライトノベル文学論」という本でスレイヤーズが大きく取り上げられています。この本はライトノベルについて、歴史、類型、ビジネスとしての側面、の3点について真面目に纏められた内容です。著者は雑誌でライトノベルの紹介などを書いているライターさんのようです。詳しく知らないのでこの認識が間違っていたらごめんなさい。

ライトノベル文学論

ライトノベル文学論

 で、ライトノベルの類型について論じている2章目でスレイヤーズが大きく取り上げられています。章名からして「スレイヤーズライトノベルを計る」。この本ではスレイヤーズの登場からライトノベル史が始まった」と位置づけられていて、「スレイヤーズの中に現在多種多様化したライトノベルの特徴の原型含まれている」、と論じています。・・・なんか纏めるとすごい難しい話になってる・・・。大学時代のレポート思い出すなあ。私はラノベは神坂先生の作品とフルメタくらいしか継続して読んでいるものはないので、ライトノベル全体について語れる知識はないのですが、この本でのスレイヤーズへの評価についてはすごく納得しました。
 「スレイヤーズに見るライトノベルの特徴」としてこの本で上げられているのは次の4点。

1.キャッチーなキャラクター・・・「記号的なほど明確な特徴を与える」
 「明確な個性を長所も短所も織り交ぜてキャラクターに付与するのはライトノベルの常套手段の一つ」とあります。なるほど、スレイヤーズにおいて、キャラクターの魅力と言うのは大きい。1巻は「昔、他の話用に考えていたキャラクターを流用しつつ、行き当たりばったりで書いた」とされるスレイヤーズ。そんな方法が取れたのもキャラがしっかりしていたからなんだろうなあ。論点からはずれるけど、そこにあれだけの世界観を後付で構築した神坂先生の技量というのは本当にすごいと思う。

2.読者の感情移入と憧れを誘う・・・「長所と短所をバランスよく持たせる」
 「読者がライトノベルに求めているのは手軽に「現実に出来ないこと」を体験することなのだから、そこに登場するキャラクターは読者が憧れるのに相応しいだけの要素を持っていなければならない」「読者がそのキャラクターの出会う様々な事件を本人の視点で追体験し、彼女の感じたものを同じように感じる。彼女が怒り、悲しみ、楽しむことを「ああ、わかるわかる」「俺もこうだろうな」と理解し、共感していく―これこそが感情移入の楽しみである。」この点は個人的にはとても共感した。私がスレイヤーズを楽しむ上で重要なウエイトを占めているのがこの点なので。さらに著者は「リナは優れた能力と破天荒な行動によって「憧れ」の存在である一方、時に小市民的な感情を見せたりして、「感情移入」しやすい存在であることをアピールしている」と評価。なるほど納得。リナの魅力として、ただただ遠く憧れるって存在なだけじゃなくて、「親しみやすさ」という要素があるのが大きいんだな。

3.読みやすさを意識した文章・・・「会話文、短い文章、改行の多用など」
 「会話を多用し、むやみに地の文ばかりを連ねない」「一文一文を短めに切る」「改行を多用し、全体的に「白い」、「ページの下半分に文字が少ない」という印象を与える」といった文章技法の使用を「読みやすい」と評価しています。確かに・・・言われてみれば下半分文字少ない。

4.娯楽小説としてのストーリー・テーマ・・・「奥深いテーマ、どんでん返し、など」
 1〜3で述べられたキャラクターの良さや文章技法による読みやすくする工夫を評価した上で、スレイヤーズの良さがそれだけじゃない点を強調してくれています。テーマや意外な結末と言った小説としての面白さもちゃんと存在していることも評価している。やっぱり「話が面白い」というのは重要だと思う。

 スレイヤーズについて書かれているページは7P程。その為に1600円の本を買ってしまいましたwとは言え、読み物としても普通に面白かったので、なかなかいい買い物をしました。本屋で見かけたら手にとってみてください。