シェーラの真実

 新装版の表紙イラストを見ていたら、シェーラについて10年越しに気がついたことがあるので、考察を。スレイヤーズ長編15巻までのネタバレを含みます。新装版派の方はご注意を。と言ってもこのブログは原作関連はネタバレしまくってるので、今更注意喚起する意味ないかも知れないけど。


 12巻の表紙シェーラ…この表情って、彼女が滅びる直前に浮かべていた笑みなんじゃなかろうか?それに気がついたとき目から鱗が落ちた。それまで私は、シェーラ最期の表情は、魔族らしくもっと不敵な、「してやったり」みたいな笑みだと思っていました。「計画は成功した。私はここで滅ぶけど、これで終わりだと思うな」…そんな警告めいた笑みなのかな、と。でも、今回の表紙イラストを見て、その印象ががらっと変わった。シェーラの儚さを感じたといいますか、「こいつもかわいそうな奴だったんだなー」、と思って切なくなったよ。シェーラは滅びる瞬間、「魔王の欠片を見つける」という任務を果たしきり、覇王の役に立てたことに満足しきって、その上で滅んでいったんだな、と。
 魔族の大きな要素として、上司に絶対服従(高位の存在に限るようだけど)って言うのと、滅びを望むというのがある。そんな彼らにとっては「どう滅ぶか」、っていう散り際の美学みたいなものはとても重要なんじゃないかな、と思う。至高は世界を滅ぼした末に自分も滅ぶ、っていう形だと思うけど、その域を目指せるのは、実際に滅びの計画を立てたりしている腹心クラス以上。それ以下は命令に従って動く存在なので、その計画の遂行のため、上司の命令を全うして、役に立った上で滅ぶ…という辺りが納得の散り際、のような気がする。覇王に道具扱いされたことにショックを受け、挽回しなくては、と焦っていたシェーラ。でも、最後の最後に任務を無事果たした。ルークの存在を何らかの方法で覇王に伝えた際に「よくやったぞ」的なねぎらいの言葉も伝わってきたのかも。彼女は上司の役に立てたこと、そしてその上での滅びに満足して、笑みを浮かべた、これがシェーラの笑みの真実だったんじゃないかな。そう考えると、リナがラグナ・ブレードで斬りつける瞬間、戸惑った理由も鮮明になる。それは、シェーラの浮かべた笑みが場違いに穏やかだったから。12巻のイラストを見て、10年越しにその事に気がついたよ。って気づいてなかったのは私だけか?
 一応ここまで書いて、15巻を見返してみた。シェーラの最期の表情については「会心の笑み」という記述がありました。辞書検索してみたら

かいしん くわい― 0 【会心】
(名)スル
(1)心から満足に思うこと。心にかなうこと。
「―の作」
(2)納得すること。理解すること。
「自身の高尚霊妙なるを―して上々進歩する/福翁百余話(諭吉)」

かいしん-のえみ くわい―ゑみ 【会心の笑み】
心から満足したとき自然に出るほほえみ。
「―をもらす」

goo辞書検索より

 
 という意味があったみたいで。やはり今回のイラストバージョンが正解、且つその裏には「心から満足」という感情があったんだなーと。まだまだ読み込みが足りませんでしたよ。うーん、深いなあ。あらいずみ先生、素敵なイラストをありがとうございました!

 しかし、シェーラも思えばかわいそうな子ですよ。覇王に道具扱いされながらも、従わざるを得ない。そして己が駒であることに気がつきながらも、上司の役に立つことは至上の喜び…これが魔族の宿命なんじゃないかなあ。シェーラは上司に恵まれなかったのにこの忠義…哀れよのう。と、言うのも人間的な感覚からの感想で、魔族のシェーラとしては満足して滅んだから幸せだったんだろうか?