アビスゲート1 ネタバレ感想 その2

 その1からの続きです。今回は多少他の神坂作品との比較論も交えつつ、キャラクター編を。

★キャラクター編
 キャラクターは全体的にちょっと薄味という印象が。おそらくは世界観の方が先に決まって、それを見せていくのにどんなキャラクターが必要か、のような感じでキャラ生成されたんじゃないかな、と思った。この辺りはリナというキャラクター主導で書き始め、次第に世界観が固まっていったスレイヤーズとは対照的です。さて、各キャラクターを見ていきましょう。

・クラウス

 「駆け出しの傭兵」という言葉がしっくり来る。潜在能力はありそうだけど、戦闘にしても判断力・交渉力にしてもイマイチ詰めが甘くてボロが出てしまう。で、まだ一人前になり切れない自分自身を自覚しつつも、ちょっと大人ぶっている。今後の経験で成長して行くのであろう様子が感じ取れるキャラクターです。彼の個性を現すキーワードは二つ・・・「格好いい」と「海が嫌い」。
 「格好いい」の方はギャグ方面での要です。クラウスは少しナルシストで、自分をかっこよく見せたいんだけど、うまく決まらない。そこをアリサやルグナードにつっこまれる、というパターンが笑いを生んでいます。
彼の最大のカッコ悪いポイントは、「マナチップをかじると必ず腹を壊す」でしょう。何と言うか・・・いろんなものが台無しw戦闘終了後に必ずトイレにこもる主人公・・・哀れすぎる。この事実が明かされるくだりも面白い。「高すぎる資質の代償が体に負担を与える」なんて、大技を使うキャラクターによくある設定ですが、格好よく盛り上げて、負担を与える部分が「腹」って言うオチは見事です。ここは「お約束を逆手に取る」という神坂先生の笑いのセンスが光る部分です。クラウスはラストバトルまで通常武器のみで戦っていたから、セレストル使えないのかな・・・と思っていましたが、まさかこんなオチが待っていようとは。今後も毎度腹痛と戦いつつ、敵とも戦うんでしょうか?頑張れ、クラウス!
 さて次「海が嫌い」の方。こちらはアビスフォームと戦う理由付けとして、ストーリー展開と絡む部分ですね。主人公が自主的にアビスフォームと戦う存在であることで、物語の主軸である「海」に否が応でも関わることになる。で、その戦う理由が正義感や金目当てではなく、「海への憎悪」です。幼い頃の経験から、クラウスは海を憎んでいる。アビスゲートが現れると、周りが見えなくなるくらいに。「憎悪」が戦いの理由、というキャラクター像は「蹂躙者たちの街」の那美に通じるところがあります。でも、クラウスが那美ほど悲壮感を漂わせていないのは、ルグナードという育ての親兼理解者が傍に付いていたから、なんだろうな。ちょっと脱線しましたが、海への憎悪故に、世界レベルの大きな戦いに巻き込まれていきそうなクラウス。今後、どんな道を歩むことになるのか・・・見守りましょう。

・ルグナード

 クラウス叔父で育ての親にして傭兵稼業の師匠。まだまだ駆け出しのクラウスのつめの甘さをうまい具合にサポートしています。いつも冷静沈着、傭兵としての経験豊富で判断力・交渉力に優れ、且つ一流のシンガー・・・なんとも「かっこいい大人」です。クラウスの目標なんだろうな、やっぱり。
 ただ、ちょっと完璧すぎて面白みに欠けるかな。もう少し弱点のようなものがあった方がキャラクターとして味が出るんじゃないかと思った。例えば女には弱いとか・・・。師匠キャラが女好きはさすがにベタか。2巻以降、意外な趣味が発覚・・・とかそんな展開を希望してみる。

・アリサ

 半ば強引にパーティに加わってしまった本作のヒロイン。そんな行動力とポジティブな思考は神坂ヒロインの典型のような少女です。だけど、他の神坂ヒロインズに比べると、あまり怒ったり取り乱したりすることは少なく、情緒面は安定している印象。この辺りはクラウスとのバランスを取った結果かな。
 さて、彼女、実は謎だらけ。素性も経歴も不明です。戦闘シーンを見ると場慣れしているようなので、傭兵としてはある程度経験積んでいるのかな。「マドックに殺された村長に昔世話になったことがある」とありましたが、その辺もあまり語られませんでした。今後明かされるのか、話すほどの繋がりじゃないのか・・・。でも仇を討とうとするくらいだからそれなりに恩があったんじゃないかな、とは思う。いや、逆にそもそもこの理由も方便で、何か他の理由があってクラウス達に近づいてきた、なんて可能性も考えられるかも・・・。
 彼女の最大の謎は「歌」。アリサの歌を聴くとクラウスは何故か体調が悪くなってしまう。クラウスが体調を崩す、と言えばマナチップをかじったときも反動が来てしまう点が思い浮かびますが、関係あるのかな?歌にセレストルの作用が乗ってるとか?もしくは、クラウスのトラウマである「海」に関係する要素が含まれているという線も考えられます。歌の秘密は確実に明かされると思うので、彼女の素性共々、伏線として楽しみにしています。

 以上がメインキャラ3人。個人は少々薄味の印象ですが、3人のテンポの良い掛け合いはまさに神坂節で、読んでいて楽しいです。世界観からシリアスかと思われたアビスゲートですが、ギャグの面でも楽しめそうです。2巻以降と短編に期待してみます。