スレイヤーズ15 「デモン・スレイヤーズ」ネタバレ感想 その3

 15巻語り続きを書きます。
 今日は4章目から私の好きなシーンを挙げつつ、リナとルーク、そしてガウリイの織り成すドラマの魅力を語っていきます。BGMはGive a reason〜Ballade versionを推奨。
 *6/1 一部修正しました。


 まずは、魔王の正体がルークだと判明したあとのリナの描写が良い。混乱、戸惑いが伝わってくる。「・・・ルー・・・ク・・・?」3章目の終わりでそう呟いた後、リナのセリフがしばらくない。視線ではルークを見据えて観察しながらも、動揺して言葉が出ない。その間、間を持たせるかのようにルークが一人で喋る。そして、作中にも「ようやく」とある通り、何とか口に出た言葉は

「・・・何なのよ・・・」
「・・・何なのよ・・・?これ・・・?一体・・・・・・?」

 という動揺が前面に出たもの。魔王がルークだった・・・あまりの出来事に混乱して事態が把握できていない様子。ルークはさらに説明を続ける。自分の中に魔王が眠っていた、と。

「・・・冗談・・・でしょ・・・?」
「・・・だって、目・・・?」

 このセリフからは、ルークの言葉を信じたくない、冗談であって欲しい、そんな縋るような思いが伝わってきます。魔王が人の心に封印されていることは、リナもミルガズィアさんに聞いて知っていたはず*1。でも、「ルークは目が見えていた・・・レゾとは違う・・・魔王ではない」・・・そう思いたかったから、思わず問いかけてしまったのではないかと。
 ルークは自分の中の魔王が目覚めた経緯を語る。消えない憎悪・・・いつしか世界を憎み・・・自身の中の魔王に気づいた、と。

「・・・なんで・・・?」
あたしの口から漏れるのは、間の抜けた――自分でもいやになるほど間の抜けた問いかけのみ――

 この問いかけと、その後の心理描写がなんとも切ない。ルークのミリーナへの思いは知っている。消えない憎悪がいつしか世界そのものへと向かうことがあることも知っている。それでも、どうしてこんなことになってしまったのか?・・・そんな思いはぬぐえない。もっと問いかけたい言葉はあるはず。だけど、言葉にならない。思わず口をついた言葉に自己嫌悪に陥るリナ。
 ここで今まで黙っていたガウリイが口を開く。

 あたしより、よほどはっきりとした口調で。
「あの事件――
 そもそもの原因を作ったのは魔族だったんだぞ。
 知ってるのか?」

 ガウリイの持ち味として、普段はリナを信じて判断・交渉は任せて自分は後ろをついていく、でも、リナが迷ったとき、弱さを見せたときには自分が前に出てフォローする、というのがあって。ここはまさにそれ。・・・って、以下のシーン全部そうなんだけど。この問いは普段ならリナが問いかけたでしょう。だけど、いまだ混乱から抜け出せないリナの代わり、とばかりにガウリイが問う。
 ルークの説明にリナは覇王の起こした事件の真相を察する。頭が回り始めた様子から、冷静さが少し戻ってきたような印象を受けます。そして、ルークはリナ達を呼び寄せた目的を語る。「いつもと全く同じよう」なしぐさが、彼が魔王ではなく、まぎれもなくルークであることを暗示しているかのよう。

 (略)
「世界を滅ぼすべきなのか・・・・・・俺がくたばるべきなのか・・・
 ・・・どっちが正しいのか・・・・・・確かめるために」
「・・・・・・冗談じゃないわよ・・・・・・」
 あたしはかすれた声をしぼり出す。
 視線をそらして。
「・・・そんなことに・・・つきあえ、なんて・・・・・・」

 「視線をそらす」とあります。最初はルークを呆然と見つめていたであろうリナ。事態を理解し始めたことで、言葉に、しぐさに意志が乗り始める。まずは「迷い」「拒絶」かな。ルークの真意を知ったリナはゼロスの態度の理由も察する。「あいもかわらず性格の悪い」ゼロスの態度に気づいたことも手伝ってか、次に生まれるのは「怒り」。

「悪かったな、じゃないわよっ!
 じゃあ何!?変な魔族送りつけてきたのもゼロス送りつけてきたのも、あたしのニセモノちらつかせたのも、みんなあなたがやらせたことなの?」

 ここで怒りが生まれる辺りがリナらしいというか。呆然とした状態から冷静さを取り戻し、その次に感情が戻ってきて・・・今まで押さえられてきた反動のように「納得いかない」という思いが溢れてくる。一気にまくし立てる様子からも感情の高まりがうかがえる。それでいて、論点は今までの魔族の行動の意味を問う内容。その後も、ミルガズィアさんとメフィは無事なのか、デーモン発生と異常気象の理由(これはガウリイだけど)を問い・・・まだ決断の核心には迫れない・・・。ここは前半パートの謎の種明かしでもあるんだけど、リナとガウリイの迷いを示す効果もかねていると思う。
 そうこうしているうちにもう質問はなくなって、生まれる沈黙。

「そろそろ・・・・・・はじめねえか・・・・・・?」

 ルークが切り出す。リナもわかっていた。自分たちが決断を先送りにしていたことを。そのときが迫ってきた。
 ここから数ページのリナとルーク、ガウリイのやり取りの臨場感がすごく好きです。静と動のコントラストと言いますか。
 沈黙を破って切り出したルークにリナは感情をぶつける。

「・・・・・・冗談じゃないわよ!
 勝手にンなこと決めて!
 ・・・・・・いきなり・・・・・・!
 いきなりンなこと言われて、『ハイそーですか』なんて言えるわけないじゃない!
 ・・・・・・ほかに・・・・・・
 ほかに何か方法があるでしょ!?
 なんとかなんないの!?」

 リナのセリフの中には緩急がある。「いきなり」「ほかに」を2回繰り返すところには、強い口調の中にも感じられる迷い。「なんとかなんないの?」・・・リナ側からは何も提案できない・・・痛切な叫び。
 対するルークは「どこか淋しげに」「どこか清清しげに」静かに一本調子で語る。その裏にはゆるぎないそして淋しい決意。静かに語りかけながら・・・「無理に戦うつもりはねえ」と抜け道を提示しながらも、リナとガウリイが自分に応えてくれるのを待っている・・・そんな印象を受ける。
 リナはルークの強い決意に気おされそうになりながらも、「どちらも選べるわけはない」・・・この気持ちもやはり揺るがない。

「そんな・・・・・・めちゃくちゃなっ・・・・・・!
 そんなの、それこそあたしとガウリイにとっちゃあ、押し付けられた二択じゃない!
 認めないわよそんなの!
 他の――何か他の方法があるはずよ!
 世界を憎んでいる、って言ってたけど、きっとそれもあんたの中にある魔王の心のせいで――!」

 そうか・・・リナもルークの話を聞きながら、どちらも選べないと思いながら、他の方法を必死に考えていたんだな・・・今気が付きました。「もしルークと魔王を分けることができるなら、世界への憎しみも消えるのでは?」難しい・・・いや、「融合した人と魔族を分ける」ことは竜族達の技術を使っても無理・・・ジェイドを前にミルガズィアさんが語った真実を思えば、無理な提案。加えて、世界への憎しみが魔王ではなくルークから生まれたものあることも分かっていたと思う。それでも提案せずにはいられなかった。「戦う」以外のルークを救う道への可能性を捨てたくはなかった。
 だけど、ルークはそんなリナの言葉を遮って・・・「違う」と説明を始める。あくまで静かに。「魔王の意志ではなく俺自身の意志なんだ」と。
 「動」のリナと「静」のルークの問答は平行線・・・そこにこれまた静かに加わってきたのは・・・ガウリイ!

 「――わかった。つきあってやるよ。」

 リナが「状況わかってるの?」と問いかけるのも無理はないことば。でも、ガウリイはそのことばの意味をやさしく、静かに説明する。その内容と言うのが・・・ルークの意図を察し、自分の気持ちを吐露しながらもリナを説得する上でこれ以上なく的確なもので・・・圧巻です。
 まず1点目は「ルークのわがままになら付き合ってやってもいい」という思い。この「気持ちを収めるために自分と戦って欲しい」「仲間をせめて自分の手で」という考え方はどちらかというと「男のロマン」の世界。1巻で魔王に「敵わないまでも一矢報いる」という戦いを挑もうとしたゼルにガウリイは「つきあうか」と賛同した。リナはそれを「男のロマンとか意地とか言うなら捨てちゃいなさい」と否定する。リナが今回もルークの決断に「認めない」と反対するのは当然でしょう。このままリナとルーク、二人の会話が続いても、リナ側からは「戦う」という答えは出なかったんじゃないか・・・出せたとしてももっと時間がかかったのではないか・・・そんな気がする。
 だけど、今は、他に方法がない、どうしようもない状況の中で、ルークが望んでいるのは、まさにその「男のロマン」染みた行為・結末だった。そうすることで、気を許した仲間の心に触れて気持ちを収めて・・・最後は二人の手にかかってミリーナのところに行きたかった。現にルークは魔族化したジェイドを「せめて俺の手で引導を渡してやる」と斬っている。ガウリイは、そんな決して合理的ではない、でも絶望の中でなんとか自分自身を納得させたいというルークの気持ちを察していて・・・「ルークのわがままにつきあう」と言い切った。
 *6/1この部分少し手直ししました。なんとなくニュアンスが違ったかな、と思いなおしたので・・・。
 二つ目。ルークと命のやり取りはしたくないという本音の後に続いたのは、リナの心に訴えかける言葉。

「つきあわない、勝手にやってくれ、って言っちまったら・・・・・・
 それこそ運命まかせ、他人まかせってことになっちまうんじゃねえのか?」

 リナが「運命まかせ」「他人まかせ」なんてものを好きではないことを分かった上での問いかけ。今「戦う」を選ばなければ、魔王は世界を滅ぼすために動き出す。そうなったら、リナやガウリイの未来は運命に委ねられてしまう。「それでいいのか?」という問い。リナは思わず口ごもる。ルークへの感情から、いつものリナらしくなくその先まで見据えることができていなかった。この問いへの答え・・・ガウリイは「そんなのはごめんだぜ」とNoサイン。
 そして、さらに続ける三点目・・・・

「オレはお前さんの保護者、だからな。
 お前さんの未来を運なんぞにまかせるわけにはいかないんだよ。」

 ルークとは戦いたくはない・・・だけど、「魔王」となった彼がリナの未来を奪う可能性があるなら・・・今ここでそれを止められるのなら・・・敢えて戦う。ルークとリナと、二人を比べて・・・リナを選んだ。恐らく、これがガウリイの決意の決め手だったんじゃないかな、と。
 締めくくりには

「――つらいなら、リナ、お前は手を出すな。
 オレ一人でも――やる」

 と、自分の思いをリナにまで強制はしないことを告げて、ルークへと「強い意志の光」をともしたまなざしを向ける。
 ・・・これはリナが「ずるいわよ」というのも無理はない、完璧な説得です。理屈の上からも、自分のことを思ってくれているという気持ちに応える意味でも・・・反論の余地なし。こう言われたら・・・リナなら自分の感情を押し殺しても、ガウリイと共に戦う道を選ぶしかない。このガウリイのセリフは偽りや打算のない純粋な気持ちだったと思う。でも結果的にリナを見事なまでに説得してしまった。
 「運命を変えることができるのは今」、「ルークの心が安らぐ手段はこれしかない」この2点についてはリナはこの説得で、ガウリイの考えに同意する。でもまだ、「最後の一押しの決意」には至っていない。それはこの先のシーンでで出てきます。
 ルークと戦うことを決めたリナは「苦笑を浮かべ」てルークに決意を告げる。「友として」の最後の会話・・・ルークも苦笑しながら応える。ああ、ここで笑い合うのか・・・両者の切ない笑顔が目に浮かぶようです。
 そして、戦いが始まる・・・。
 この後のリナのモノローグのスイッチ変換具合がとても上手くて、何度読んでも胸が締め付けられるような、熱いような、そんな思いにとらわれます。

頭の中を戦闘モードに切り替えて。
心を押し殺し、あたしは瞬時に頭の中で計算する。

 そう、状況を冷静に分析して戦略を練る思考はまさに戦闘モードに切り替わっている。「戦闘モード」に切り替わってからは今までの感情に溢れて決断を迷っていた部分と比べて、ページ内での文章の密度が増えているのが視覚的にも見て取れる。これは・・・戦闘と状況判断に集中することで、必死に心を押し殺しているからなんだな・・・そう思うとリナの心にシンクロして胸が痛む。それと同時に、逆にこの状況下で戦闘状況の分析へと思考を持っていけるリナの戦士としての芯の強さを思うと、彼女に強く惹かれている自分に気づきます。
 先日某テレビ番組で、会社の人事担当の人が「わが社の求めている人材は『クールブレイン&ホットハート』な人です」というようなことを言っていた。「冷静で頭は冴えているけど心は熱い」という意味らしいけど・・・この形容はリナにぴったりじゃないか!?って思ってしまいました。ということでこのキーワードはいただき!
 ここで一旦切ります。結局ほぼ全シーン語ってるから長い・・・orz。

*1:7巻でドラゴンズピークを訪れた際、「リナが魔王の欠片では?」という話題が出た。