新装版スレイヤーズ15「デモン・スレイヤーズ」ネタバレ感想 その2

 書きたい事が断片的に頭の中をぐるぐる回って難航中な15巻語り。こういう時は例によって書きながら纏めるぞ!という事で、続きいきます!以下、ネタバレ。

 前回は1部と2部を比較して「2部は2部の良さがある」というお話をしました。具体的にどこがいいのか、という話を今日はしたいと思います。2部・・・そして15巻の一番の魅力は、リナの心の動きの描写だと思っています。この点は14巻感想でも書きましたが、15巻においてもそれは健在。一人称という形式を最大限に生かし、リナの心の動きと読み手がシンクロすることで、ドラマ・テーマが臨場感溢れる形で伝わってくる。
 長編スレイヤーズはリナの成長の物語という側面もあると思うんですよね。1巻でいきなり魔王を倒してしまったりするので、一見するとその印象は薄いのですが、1〜3巻くらいまでのリナと2部のリナを比べると明らかに成長している。精神面は相変わらずの部分は残しつつも大人びてきているし、戦闘能力・判断力・推理力というのも旅の中での経験値が反映されています*1。「主人公の成長の物語」としてスレイヤーズを捉えた場合、2部と言うのはズバリ「主人公挫折の話」だと思うのです。「主人公挫折」というのは成長要素がある物語では必ずと言ってもいいほど出てくるイベントでして、その後に「挫折を乗り越えて立ち上がる」という流れとセットで組み込まれる。その過程のドラマというのは読み手の心を打ち、主人公の魅力を更に引き出してくれる。そんな「挫折と再起」のドラマとそれによって伝えたいテーマを、とても丁寧に且つシビアに描いたのがスレイヤーズ2部・・・という読み方もできるんじゃないかな、と思っています。
 それは1部の先だから描けた物語。1部で描かれた、一人の力に限界を感じたときに仲間の存在に助けられたこと、そしてガウリイという旅のパートナーを得たこと。この2点が2部の物語の進行と、リナの最後の試練を描く上でとても効果的に働いている。仲間であるルークを倒さなければならない。そのルークが闇に落ちてしまった理由がリナにとっても今や人事ではないこと・・・最愛の人を失ったことによるものだったため、ルークの気持ちが痛いほどにわかる。そんな中、魔王となったルークと命を賭けた戦いをするのか、しないのか・・・リナは決断を迫られる。「押し付けられた2択」に対するリナの決断がキーになるという流れは1部のラストと同じ。でも、その答えは真逆と言うか。1部ではガウリイと世界の滅びのリスク、どちらを選ぶかを迫られたリナは「ガウリイを助けたい」という感情に従ってガウリイを選ぶ。2部では、ルークと戦いたくない、という感情を押し殺して対峙する道を選ぶ。感情と理性、どちらを選ぶのか、どちらが必要なのか・・・まさに「正解なんてありはしない」。二つの決断の対比はなんとも深く感じます。
 そして2部の決断の深さはもう一つ。それは・・・これははっきり書いちゃうの辛いけど「ルークの事は諦める」という決断であること。リナはルークに何度も「他に何か方法があるでしょ!?」と問いかける。でも具体的な方法は示せない。心の奥ではもう、他に方法がないことはわかっていた。・・・リナにとって本当に苦渋の決断だったと思う。「例え勝てる可能性が1%だとしても、負ける気持ちで戦えばその可能性もゼロになる」・・・覇王との戦いで一度は揺らいだけど、取り戻したリナの持論。だけど、今回は・・・ルークを救うという点では可能性0%の戦いに挑まなければならない。「戦わない」という選択肢もあった。だけど、リナはガウリイの後押しもあって、敢えて心を押し殺して「戦う」道を選ぶ。
「傷つくことは怖くない だけど決して強くない ただ何もしないままで 悔やんだりはしたくない」
 Give a reasonの歌詞が図らずもシンクロするようなシーン。辛い選択を迫られても、そのことで後悔することになっても、「何もしない」は選ばない・・・苦渋の決断の中にもリナらしさが垣間見えます。
 新装版11巻あとがきによると、「2部の根っこの部分には、人って死んじゃうこともあるけれど、それでも残った人はしっかり生きていかなくちゃ」というのがあるそうで。これを拡大解釈すると、「世の中にはどうにもならない事もある。それでも、人はしっかりと生きていかなくちゃ」という風にも取れるかな、と思う。それを示すようなリナの迷いと決断・・・その先にある涙と決意。なんとも切なく、それでいて未来を見据えた素敵なテーマだと思います。
 リナの話を中心に書きましたが、リナを支えるガウリイの存在の大きさ、そしてリナ達に戦いを挑みながらも本心では滅びを望んでいたルークの哀愁もまた良くて。
 今、ふと「Give a reason〜Ballade version」が聞きたくなりました。先日のスレイヤーズMEGUMIXをお題にしたスレイヤーズ語りの中でも話題になったのですが、Give a reason〜Ballade versionは15巻のテーマ曲にぴったりだなあ。今聞きながら泣きそうになったよ・・・。
 さて、以下、具体的なシーンを挙げて語っていきます。と思ったけど、かなり長くなるので、この辺で一旦切ります。続きはぼちぼち掲載します。

*1:この辺は意図的に成長させただけではなく、神坂先生が書くリナが、長く書いているうちに洗練されたことも影響していると思います。すぺしゃるで比べても、初期のリナと今のリナでは戦闘のセンスや推理力・判断力などの向上が感じられるので。