新装版スレイヤーズ14 セレンティアの憎悪 ネタバレ感想 その1

 ようやく14巻に辿り着きました。2部のターニングポイントとなるこの巻。まだどんな感想になるのか纏まりきっていないけどぼちぼち書き始めます。と言うことでネタバレです。


 この本を初めて読んだときの衝撃は忘れられません。あれは確か夏だったはず。約1年ぶりとなるスレイヤーズの新刊。ワクワクしながらゲットして、逸る気持ちを抑えつつ軽いノリで読み始めました。序盤はいつものスレイヤーズ。いつの間にやら面倒な事件に巻き込まれる形となったリナが、セレンティアの街を舞台とした陰謀の解決に乗り出す。ノリもコミカルでさくさく読み進めました。しかし、衝撃は半分ほど読み進めたところでやってきた。しかもあまりにもあっさりと。思わずページを何回もめくって前後を読み返してしまった。「え…まさか…本当に…ミリーナ死んじゃったの…?」にわかに信じられませんでした。確かに過去作でも人が死ぬシーンは多かった。だけどまさかパーティメンバーが死んでしまうとは…。さらに衝撃は続く。ミリーナを失ったルークは復讐に駆り立てられ凶行を繰り返す。リナとガウリイはルークを止めるため、望まぬ戦いを強いられることになる。結局…リナたちは何も出来ないまま、ルークは姿を消す。スレイヤーズのイメージをがらっと変える、ショッキングな展開でした。
 この巻は私がネットを繋いでから初のスレイヤーズ新刊でして。リアルタイムに他の人の感想を見れる機会というのは初でした。当時は渡部監督のホームページである猫南蛮亭に原作ネタバレ掲示板があったんですね。そこにはたくさんの感想が書き込まれていましたが…14巻のこの展開について否定的な意見が多かったように記憶しています。具体的にはあまり覚えていませんが、ミリーナが死んでしまったことへのショックや後半の欝展開への批判のようなものがあったかな。私も当時は同じような感想でした。当時の私はスレイヤーズにこういう展開は望んでいなかったから。今でこそ14巻は名作としてファンに受け入れられていますが、リアルタイムでこれを読んで「いやー、今回のスレイヤーズも良かったね」と喜んだ人は少数派だったのではないでしょうか?話の展開の好みは別としても、スレイヤーズはキャラクターの魅力というのが大きなウェイトを締める作品。13巻まで読み進めるうちにルークとミリーナの二人に愛着がわいていたと思うんです。その二人がまさかこんなことになるとは…。私自身も、にわかには受け入れられないといっても…拒絶とかではなく、とにかくショッキングだったことは覚えています。
 それが…いつしか私の中のスレイヤーズ観を180度変えるくらいお気に入りの話になるとは、当時は思いもしませんでした。その転換のきっかけが何だったのか、そして何時ごろだったのかは覚えていません。多分要因の一つは「時間」だろうなあ。時間と共に表面上のショッキングさは薄れ、その犠牲の上に描かれた物語の良さに気づいた。年を重ねて私自身の好みに変化が出たこともあると思う。
 さて、思い出話はこれくらいにして、そろそろ内容の話に参りましょうか。個人的に14巻の一番の良さはリナの心理描写だと思っています。…散々ルークミリーナの悲劇を煽っておいてそれか、とお思いになるかもしれませんが…あくまで個人意見と言うことで…。私の中ではスレイヤーズを読むときに「リナの視点」というのは外せない重要な魅力なので。14巻…そして15巻ではリナの「弱さ」が思いっきりクローズアップして描かれます。リナの弱さについては1部の頃からあった要素であり、ここでいきなり出てきたわけではないけど、ルークの憎悪を目の当たりにしたリナが見せる弱さ・脆さというのが、これまたまさかの展開なんですよね。呆然自失…普段のリナからは想像も出来ないような姿。9巻から13巻までじっくり時間をかけて仲間としての信頼が築かれてきたルークとミリーナ。ちょっとした歯車の狂いからミリーナが死んでしまい、ルークの心に憎悪が生まれる。読者もショックを受けましたが、それをまさに目の当たりにしているリナの衝撃というのはやっぱり大きかったと思う。そんな「弱さ」が描かれたことで、リナの魅力は増したと思います。
 キャラクターの持つ弱さというのは、読者にとっての親しみやすさです。とにかく強い、だけでは時として眩しすぎてしまい、遠くに感じてしまうことがある。もちろんそういう魅力もキャラクターの一つの形だと思うし、それを憧れや畏怖として突き詰めていくキャラ作りもありだと思う。リナにもそういう要素はある。けど、それだけに留まらなかった。
 ちょっと「ライトノベル文学論」という本で書かれていた話の受け売り話を。この本ではスレイヤーズの読みやすさについての評価として「主人公のリナが持つ憧れと親しみやすさ」について挙げています。この二つの要素によって読者がリナの視点へ感情移入しやすくなっているのだ、と述べられていました。これを読んで「なるほど〜」と思っちゃいました。「憧れ」はもちろんリナの持つ圧倒的な強さ。まるで自分が力を持たされているような感覚で読み進めることが出来る。親しみやすさについては「小市民的な感情」と纏められていました。要するにお金が好きだったりとか、「世の中なんてこんなもん」みたいな割り切りとか、胸が小さいことを気にしてるとか、そういう割と誰もが持ちえる感情を持っていることだと思う。そこにプラスして人間的な弱さが描かれることで、親しみやすさが増して感情移入しやすくなり、またキャラクターとしての魅力が際立った。いわば14巻のエピソードによってリナは私たちの側に歩み寄ってきたわけですが、そこで終わりではないんですね。15巻の最後に弱さを乗り越えたリナが出す結論はとても彼女らしく、輝いて見えました。この結論が恐らくはスレイヤーズの真のテーマになると思うんですが、それをより読者へ伝わりやすくなる効果もあったんじゃないかな。
 少しテーマ論に脱線しましたが…リナの視点にがっつりはまって14巻のエピソードを体感したときに、なんともいえぬ切なさというのを感じました。今回、14巻を読みながら初めて涙がこぼれました。該当シーンはラストのリナがミリーナの墓前で「本当どうってことない奴だったわ」と語りかける場面。もう、悔しさ・むなしさ・やるせなさが一気に押し寄せてきちゃって・・・。今回の事件は人が起こした悲劇です。つまらない争いに巻き込まれる形で訪れたミリーナの死。それをきっかけに暴走するルークを前に、リナ達は結局何もすることが出来なかった。この時点でリナの中にはやり場のない憤りがわだかまっていたでしょう。しかし、この事件の裏には黒幕として状況をただ楽しんでいるだけの魔族がいた。リナの静かな怒りが魔族ヅェヌイに向かいます。ここの内心の怒りを抑えるかのような「妙に冷静」なリナがすごくいい。ヅェヌイは純魔族の中では底辺レベルの敵だったようで、決着は一瞬でついた。リナはそのあっけなさに悔しさを感じて一人涙します。相手がもっと強ければ多少は達成感があって気がまぎれたかもしれない。でもそんなものもなく、ルークとミリーナの幸せがあっけなく奪われた理不尽さを強めるだけだった。やり場のない怒りも晴れない。この気持ちはきっとルークが凶行を繰り返しながら感じていたものと同じでしょう。その感情を抑えながら・・・でも言葉の端に悔しさをにじませつつミリーナに語りかけるリナ。その辺の気持ちとシンクロしたようです。
 しかし「敵が弱い」ということがここまで効果的に使われるとは・・・脱帽です。スレイヤーズは1巻でいきなり魔王を倒してしまったため、後の敵のパワーバランスに苦労した、と言う話があとがきで何度か語られています。1巻よりも弱い敵と戦うのに、より苦戦すると言う矛盾をはらんでいるわけですが、それをカバーすべくいろいろな工夫が凝らされている。中には多少こじつけめいたものもありますが、神坂先生のこの点へのこだわりはとても好感が持てる。そういえばあとがきで「1部のラスボスが魔王の腹心だったから、2部のラスボスはさらにスケールダウンして盗賊A」みたいな話が冗談めいて出てきてましたが・・・今思うとあながち冗談でもないよ、これ・・・。ラスボスは魔王だけどさ、魔王復活のきっかけとなった14巻のボスはシリーズ最弱じゃないか!それでも、ドラマを盛り上げる効果としてはこれ以上なくふさわしいボスキャラなわけで・・・。まさかこれを予期していた!?・・・深読みしすぎかも知れないけど・・・やはり神坂先生のあとがきは侮れない。
 と、長くなってきたのでいったんここで切ります。リナの話ばっかりしているので、次は他のキャラの話を。