スレイヤーズREVOLUTIONにおけるズーマ考察

 10話までのネタバレを含む内容です。


 原作でリナを苦しめた難敵、暗殺者ズーマ。旧アニメシリーズでは構成の都合か、ズーマが登場するエピソードは丸ごと削られてしまっていましたが、新作スレイヤーズREVOLUTION製作に当たり、彼に白羽の矢が立ちました。しかし、アニメでの登場に当たり、大分変更が加えられています。
 原作初登場のエピソードは4巻の聖王都動乱。セイルーンお家騒動のさなか、どさくさに紛れてリナを殺そうと企むカンヅェルが雇った刺客として登場します。その性格はまさに「プロの暗殺者」。感情を表に出さず、闇に紛れて標的を狙う。素手で相手を殺すことにこだわりがあるらしく、武器は使わないし、魔法も補助的な使い方をする。特に、黒い霧で視界を奪う「ダーク・ミスト」という術を多用していました。ズーマの体術はリナレベルでは全く太刀打ちできず、「呪文を唱える隙を与えずに間合いを詰めてくる」という戦闘スタイルを持つズーマはリナにとって非常に相性の悪い相手でした。
 アニメ版ズーマは、ジョコンダが雇った刺客として登場。セイルーンのエピソードはNEXTで消化済みなので、新規に登場となれば別の舞台が必要でしょう。暗殺者という職業を考えればリメイクして使いやすい敵キャラではあります。さらに、登場の経緯だけでなくその性格や能力も異なっています。原作との大きな違いは初登場時からリナに私怨があることが全面的に打ち出されていること。そんなせいもあってか、「プロ」らしくない言動が多い。やたらおしゃべりだったり、リナの仲間を苦しめて、リナの動揺を誘ってみたり。殺し方も「素手にこだわり」という点は一緒ですが、首を絞めるときもゆっくりじっくり苦しむ姿を楽しんでいるような・・・そんな印象を受ける。10話で「獲物をいたぶる趣味はない」と言っていますが・・・どう見ても嘘にしか聞こえない。「殺す」ことよりも「苦しめる」ことを優先している・・・そのようにも感じる。ただこれは「リナへの私怨」故に感情を抑えきれずに、冷静さを欠いてしまったと見えなくもない・・・か?少なくとも原作の「まさにプロの暗殺者」という性格からは変更されていると考えたほうが良さそう。
 能力と戦闘スタイルも違う。まず特筆すべきは、特殊呪文「虚霊障界(グームエオン)」。黒い霧で視界を遮るという戦術は原作ズーマと同じだったので、アニメでもあの霧はダークミストなのかと思っていました。ところが10話であの闇の正体が「虚霊障界」だったことが判明しました。この呪文は原作でもズーマが使った呪文です。フレア・アローを防いだ防御の術。その時、リナが「こんな術は見たことはおろか、聞いたこともない」と反応していることからズーマオリジナルの呪文でしょう(ラジオドラマではガードナーが使っちゃってるんだけどね。まああれギャグだし・・・。)アニメ版では防御の呪文として使われるシーンもあるんですが、「広範囲に呪文を吸収する闇の煙幕を張る」という効果もあるみたいで・・・。後者はアレンジバージョンってことなんだろうか?えんさいくろぺでぃあスレイヤーズによれば「精神世界面に干渉し、術者の周りに魔力を遮断する結界を張る」とあります。自分の前に集中すれば防御、周囲に張り巡らせれば魔法を封じる結界・・・というように使い分けることが可能、と考えることも出来る。ただ、ぶっちゃけラ・ティルトクラスまで吸収とか、人間が使う呪文にしてはオーバースペックのようにも感じるなあ。ただ、私の中ではこの虚霊障界の設定変更はなんか許せる気がしてしまいました。理由はわからないけどなんか「そういうものなんだ」と割り切れてしまった。10話が個人的にツボだったからかな。ダークミストはアニメでは無印でアメリアが使ってしまっていて、10話ではリナ自身も使っている。原作ではダークミストもズーマがリナが知らない呪文として初めて使用されます。でもアニメではリナの認識的には普通に手持ちになってしまっているようです。それでは盛り上がらないと思ってちょっとオリジナル色を強めてみたのかもなあ。ただ、7話では呪文が発動すらしない、10話では発動はするけど吸収、と効果の描写に一貫性がないのは相変わらず各話間で脚本及び演出のすり合わせが不十分であることを感じてしまう。
 また、アニメ版のズーマは空間を渡ることが出来るようです。7話、10話の撤退シーンはどう見ても空間を渡っています。これゆえ、ファンの間では「ズーマは既に魔族と融合しているのでは?」という憶測が飛び交いました。私もそう思っていました。でも、どうやら違うみたいなんだよなー。過去にリナと因縁がある魔族と融合しているとしたら、ラグナ・ブレードのことは知っているでしょう。全然関係ない魔族を取り込んでいるにしてはフレア・ランスが効いてしまっているし・・・。10話での「両手を失い敗走」という流れは原作の4巻と同じ展開。ズーマは恐らく5期で再登場するでしょう。その時にも原作と似たような展開になる、そう思わせるような敗走シーンです。つまり・・・アニメ版ズーマは「普通の人間でありながら空間が渡れる」ということになります。原作ベースで考えたらこれは絶対あり得ない。ただ・・・過去のアニメ版ベースで考えると・・・あり得なくもない。
 そもそも、原作では「空間を渡る」という能力の基準がかなり厳しいです。この芸当が出来るのは純魔族、もしくは人魔、しかも特別に「空間を渡れるように」と作られた個体のみ。更に加えると、魔族の力をもってしても第三者を巻き込んだ形での空間移動は普通の状態では出来ないようです。フィブリゾがガウリイを連れ去ったときもゴルンノヴァにガウリイを絡み取らせ、そこに自分の意識を同調させるという方法(あくまでリナの考察ですが)でガウリイごと空間を渡っている。自分が作った異空間へ人間を取り込む、というのはさほど高位の魔族じゃなくても可能のようですが、単純に現実世界間を移動させるのは高位魔族でも無理・・・そのように見えます。
 逆にアニメでは「空間を渡る」能力に関する基準が甘い。無印ではヴルムグンが普通に空間を渡っています。彼はコピー人間なので、所謂「普通の人間」ではないのかもしれませんが。そして、サイラーグにあったレゾの研究所では、研究所内の設備として「空間を渡る」装置というのが存在していた。TRYでも世界の中心に移動するときに「転送装置」を使っていますね。原作では「特殊装置を使った空間移動」というシーンもありません。また、先ほど述べた魔族の「第三者を巻き込んだ状態での空間移動」もアニメでは何度も使用されています。しかも、魔族より魔力が劣る存在である竜族のフィリアもこれをやっています。ぶっちゃけこの空間移動の能力はアニメの演出上すごい便利なんですよね。途中描かなくていいんだもん。そんな事情があってかなくてか、アニメ版では「空間移動」の能力に関しては原作より縛りをゆるくしているのかもしれません。話を戻してズーマですが・・・パワーアップ版虚霊障界といい、魔法の能力は原作より高いと思われる。空間渡る魔法が使えちゃうのかな?・・・そう思うしかないと思う。ヴルムグンの例もあるし。もしくは何らかのアイテムを使用している、という脳内補完。
 総合的に見て、アニメ版ズーマはスペック的には原作より強いです。特に魔法の能力は。ただ、性格というか行動に「暗殺者」として合理性を欠いたものが多く、そのせいでどうにも3流悪役のように見えてしまう。強いんだけど余裕ぶっこいて結局逆襲にあって負けました、みたいな。とりあえず、原作のように「リナとは相性が悪い強敵」にはなりませんでしたね。7話はまだしも、10話の戦闘はリナの土俵で戦っちゃいましたし。リナのラグナ・ブレード、そして後半のガウリイの活躍を演出する「かませ犬」としては合格かと・・・。5期での再登場を見越して登場させているでしょうし、「パワーアップして再登場」を強調するんだろうか。
 さて、REVOLUTIONでのズーマの登場は原作新装版のあとがきでL様により予告されていました。同時に「何でこいつがこうなったのか、実は作者の中でお話ができあがっていたらしいけど、リナの一人称の中で唐突に相手がその辺のことを語り出すのは嘘だと思ったので結局書かなかった」「本編で語られなかったズーマ回りの設定をスタッフさんに渡したんで、ひょっとしたらTV版ではその辺のエピソードが出てくることになるかもしれない」との言葉も。「何でこいつがこうなったのか」というのは「ズーマが暗殺者になった理由」のことと考えてOKなんだろうか?だとすると、10話で出てきた「リナを殺すために暗殺者になった」がその答えということになる。その真意はまだわからないけど。とすると、この設定は原作から持ってきたものでOK?となると・・・これは今までの認識を覆す程の衝撃。以下は原作ベースの考察。
 実はズーマの名前はスレすぺ時代から有名人出てるんですよね。スレすぺ2巻収録「リナ抹殺指令」でナーガが魔道を操る有名な人物の名前として「闇の暗殺者ズーマ」の名前を挙げています。リナもその時点で名が知れていますから、ズーマがリナを知っていることもおかしくないのですが・・・ズーマとリナの接点が見えないんだよなー。必死で仕入れた貴重な商品を盗賊に盗まれ、取り返しに行ったらリナに持ち去られたあとだった、とか?あんまりギャグでもなあ・・・。でも、あの作者だし・・・。原作では4巻の戦闘での遺恨以外、ズーマがリナを恨んでいる描写はないので、原作は恨みから、ではないようにも思える。売名?こいつを生かしておくとろくなことにならないって正義感?んなわけないか。ダメだ、原作絡めるとわけわからなくなる・・・。「こうなった」が「商人なのに暗殺者稼業をやっている」という意味なら「リナを殺すために暗殺者になった」はアニメ版独自設定なのかも。もしくは理由は一緒だけど、アニメの解釈も加えてるとか。
 原作と切り離して考えると、ズーマがリナを恨んでいるのはレゾ絡みの因縁、かなあ。オゼルの「契約」の相手はズーマだったみたいだし。なんか繋がりありそう。しかし「リナのことを知ったが故に暗殺者の道を選んだのだ」って、そもそも何のために調査を・・・?この辺は5期待ちだな。今の段階で考えてもよくわからなそう・・・。
 さて、ズーマの性格が変更になっている理由ですが・・・「相手が唐突にその辺のことを語りだす」状況が不自然じゃなくするためじゃないかなあ。原作のズーマならいきなし、ベラベラ自分の身の上を語るのはかなり不自然。アニメズーマなら・・・なんか教えてくれそうだw
 さて、そろそろ纏めに入りましょうか。実は落とし所が見つかってないのですが・・・。とりあえず、REVOLUTIONのズーマは5期に再登場することを前提に作られているでしょう。その時はやっぱ今度こそ魔族と融合しているでしょう。セイグラムは滅んでると思うので、別の魔族でしょうが。人魔化の線もあるかな。5期ではもう少し敵役としての魅力が出るといいのですが・・・。